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インフルワクチン、効果はたった36%? 感染症専門医が明かす“意外な価値”

『インフルエンザなぜ毎年流行するのか』より


今インフルエンザが猛威をふるっている。予防接種を打っていた人もダウンしていたが、果たしてワクチン、本当に効果があるものか。『インフルエンザなぜ毎年流行するのか』(KKベストセラーズ)の著者、岩田健太郎氏が素朴な疑問に答える。


■インフル・ワクチンは36%しか効果がない?

 ところで、インフルエンザと言えばワクチンですね。毎年秋口になると予防接種する人も多いと思います。

 しかし、あのインフルエンザ・ワクチン。本当に効いているのでしょうか。年によって「効いている」年と「効かない」年があるような気がしませんか? それに、ワクチンを打っていてもインフルエンザになったって人もいるし、逆にワクチンを打っていなくてもインフルエンザになんてなったことないよーなんて人もいます。どうも、どこまで当てになるのか分かりませんねー。

 結論を先に申し上げると、インフルエンザ・ワクチンは「効いています」。毎年、確実に効いています。ただし、「効く」とはどういうことか? ソモソモ論で理解する必要があります。なにー? ややこしい?

 ワクチンが「効いている」というのは、そのワクチンを打ったらインフルエンザにならない! という意味ではありません。えーっ! じゃ、意味ないじゃ~ん。

 と思ってはいけません。ワクチンが「効く」というのは、

 ワクチンを打った場合と、
 ワクチンを打たなかった場合

 この2つで、インフルエンザになる確率が違い、ワクチンを打ったほうがインフルエンザになりにくい、ということなんです。分かりにくいですかー?

 アメリカの疾病対策予防センター(CDC)というところがまとめていますが、例えば2017-18年の冬のアメリカのインフルエンザワクチンの効果は36%でした。

 これは、ワクチンを打たなかった人のインフルエンザのなりやすさと、打った人のなりやすさを比べると、打った人のほうが36%インフルエンザになりにくくなりましたよっという意味です。

 なんか、36%って微妙な数字じゃね? そういうご意見の読者もおいでかもしれません。ぼくも同感です。インフルエンザ・ワクチンの効きって実は「ビミョー」なんです。

 ただ、インフルエンザは非常に流行性が強い感染症なので、とてもたくさんの、何千万という単位の患者さんが発生します。仮に3割患者さんが減ったとしたら、ウン百万という単位の減少です。苦しむ患者さんは減りますし、冬に重症患者でごったがえす医療機関の負担軽減にもなります。医療機関の負担が減ると、重症患者受け入れ拒否とか、医療事故とかも減るメリットがあります。結局は患者さん自身のメリットにもなるんです。情けは人の為ならずー。

 野球でも3割バッターはよいバッターです。打席に立つたびに必ずホームランを打つのは漫画の世界の話でして、現実世界は3割は上出来なんです。インフルエンザ・ワクチンもそのくらいの気持ちで認識していただければいいわけです。

 というか、インフル・ワクチンの素晴らしさはその効果の大きさ「そのもの」にはありません。

 36%なんて、ワクチンとしての効果は控えめな方ですよ。でも、このワクチン、効果が安定しているのです。毎年インフルエンザ・ワクチンは(その年の流行しやすい株に合わせて)ちょっとずつ違うワクチンに仕立てているのですが、前述のCDCによると、2006-07年シーズンから2017-18年シーズンまで「毎年」必ず一定の効果をもたらしています。ただし、2004-05、2005-06年のシーズンは効いていなかったみたいです。しかし、これだけコンスタントに効果が安定しているワクチンというのは素晴らしい。一番効かなかった2014-15シーズンでも19%、特に効いていた2010-11年では60%でした(前掲)。バッターに例えるならば、非常に安定感のある、ムラのないスグレモノという感じです(数字の説明は一般の方に分かりやすいよう、若干「端折って」ますが、本質的には間違った説明ではないと思います)。

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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